仙台高等裁判所 昭和31年(ラ)63号 決定 1956年11月29日
抗告人 馬場功子
相手方 日本化学工業株式会社
主文
本件抗告のうち「原告郡山工場から原告本社に対する禀議書の提出命令の申立を却下した部分」に対する部分を棄却する。
原決定のうち「馬場正夫の印鑑証明書の提出命令の申立を却下した部分」を取消す。
理由
本件抗告理由は別紙記載のとおりである。
記録によれば、原決定は抗告人が提出を求めた文書の存否は明らかにすることができないが、そのような文書が存するとしても文書の表示自体からみて挙証者と文書の所持者との間の法律関係につき作成された文書ということはできないとして抗告人の本件文書提出命令の申立を却下したことが明らかであるところ、抗告人が提出を求めた文書のうち(一)相手方郡山工場から相手方本社に対する禀議書は相手方内部関係だけに止まる書類であつて、挙証者と文書の所持者との間の法律関係につき作成された文書といえないし、仮に所論のように古屋儀彦が実質的の当事者の立場にあるものとしても民訴法三一二条一号にいう当事者が訴訟に引用した文書とはいえない。
しかし、(二)本件土地売買により相手方が受け取つた馬場正夫の印鑑証明書は、本件土地売買にともなう所有権移転登記手続をするのに必要とする文書であるから、その意味で挙証者と文書の所持者との間の法律関係につき作成されたものと解するのを相当とする。
それならば、原審が抗告人の文書提出命令の申立について右(一)の文書について却下したことは相当であるから、この部分に対する抗告は理由がないが、(二)の文書について判示のような理由でこれを却下したことは違法であるから、原決定のうちこの点に関する部分は取消を免れない。
そこで民訴法四一四条、三八四条、三八六条により主文のとおり決定する。
(裁判官 斎藤規矩三 沼尻芳孝 杉本正雄)
抗告の理由
一、原告(相手方)は本件土地を昭和十九年六月十日亡父馬場正夫から買うけたと主張して居ります
然も右日時を裏付ける証拠としては古屋証人の証言の結果のみであります
二、之に対し被告(抗告人)は右売買は亡祖父馬場六三郎(正夫の父)が正夫の死後である昭和十九年十二月三十日権限なくして原告に売却した旨主張して来たものであります
三、被告は原告が書証なしにどうして十二年も以前である昭和十九年六月十日に本件売買を為したと主張することに疑なきを得ません
それで被告は原告の主張が虚構であり被告の主張を立証する為本申立を為したものであります
即ち古屋証人の証言の結果によれば
1、本件土地代金支払いに付原告郡山工場より原告本社に禀議する旨証言して居ります、右書類には代金支払の前提たる本件土地の売買ひいては所有権移転の日時が明かにされてあると考えられます
2、又本件土地所有権移転登記の為当時の登記所に移転登記の手続申請をした為記載してあります、そうであれば原告は亡正夫の印鑑証明を所持して居る筈であり右証明には証明下附の年月日が記載してあるので亡正夫存命中売買したものか死亡亡六三郎が売買したものか明かになる次第であります
四、裁判官本件申立却下の理由として民事訴訟法第三百十二条各号該当しないと判示されて居ります、然し
1、同条第三号に該当しないとしても同条第一項に該当すると思います、蓋し原告が本件売売買を為すに至つたのは古屋証人をして為さしめたのであつて実質上の当事者であります、その古屋証人が引用して居るからであります
2、第三百十一条は第三者が所持する文書でさえ書証の申出を為すことができる旨規定してあります、従つて本件申出が許容されないのは正義に反すると考えます
それで本件抗告を為す次第であります